#160 三谷さんとスプーン

2013年から2014年にかけて、無印良品松本パルコ店と松本で暮らす木工デザイナーの三谷龍二さんといっしょに、信州の美しい自然を感じられる、とっておきの場所やモノを探す、「Found MUJI信州」という活動をしてきました。 春、夏、秋、冬のワークショップを通して、信州の食材を使った料理を、信州の作家がつくった器に盛って参加者と食卓を囲み、三谷さんの指導で木を刻んだり、森の中を歩いたり、野外での音楽を楽しんだりと、ささやかな「特別」を体感しました。

この活動の総集編として、青山にて開催している「Found MUJI信州」。
5月31日と6月1日に、三谷さんのご指導の下、木を削ってスプーンをつくるワークショップを開催しました。 この日、関東は30度を越える暑い初夏の日。恵比寿のrectohallというスペースに集まりました。都会のただ中にあっても、窓から見える緑と、白い簡素な空間が安らぎを与えてくれる空間です。

まずは、スプーンの凹み部分を彫っていきます。最初は慣れない手付きで取り込む参加者のみなさま。1時間もすると、コリコリと小気味良く削る音だけが聞こえてきました。

時間を忘れて熱中していると、奥からコーヒーの良い香りが。6月1日の会には、スペシャルゲストとして京都の焙煎家オオヤミノルさんが、初夏にぴったりのコーヒーを淹れてくださいました。坂田阿希子さんがコーヒーに合わせて用意してくれたのは、夏みかんピール。そして、Found MUJI青山で販売中のフェアトレードのチョコレートを一欠片ほおばり、後半の作業に取りかかります。

スプーンの柄、スプーンの丸みを削っていくのは、厚みを調整するのが難しいところ。つい削りすぎて、危うく穴があきそうになる人も。
難しい局面も乗り越えてつくりあげるからこそ、出来上がったときの感動もひとしおです。
最後にヤスリで整え、軽く水洗いして、完成!スプーンはこの後の食事に向け待機します。

労働の後にはすばらしいご褒美が。
この日、お料理してくださったのは、料理研究家の坂田阿希子さん。信州の食材を中心に、信州の作家の方々がつくった器に盛りつけ、信州の恵みをふるまってくださいます。
まずは、新タマネギのピューレ。やさしい甘みのこの前菜を、先ほどつくったばかりの自分のスプーンでいただきます。「意外と食べやすい!」「おいしくて一心不乱に食べちゃった」とみなさま、おいしい料理と自分のスプーンにご満悦。デザートスプーンとしての小ぶりなサイズですが、こうして小さな前菜の器にも使えることを教えてもらいました。

鈴かぼちゃというキュウリの食感に似ている珍しい生でいただくカボチャのサラダ、様々な色と甘さのトマトのサラダ、松本市の清水牧場のチーズ、ルヴァンのパン、小布施ワイン。信州が凝縮されたお皿を経て、メインのボルシチへ。「ビーツって長野だね」と坂田さんもおっしゃるように、ビーツは長野県や北海道で生産が盛んな野菜。坂田さんが紹介しているスープや洋食のレシピの中にもボルシチが登場します。ビーツを使った坂田さんのボルシチは、信州を締めくくるにふさわしい一品でした。

食事の後、スプーンを水洗いして、今度はエゴマ油を含ませます。油をなじませることで木の乾燥を防ぎ、口当たりを良くします。「使い込むほど油がなじんでいきます。」以前、Found MUJI信州 春の回でもスプーンをつくられたご夫婦がこの日その時のスプーンを持って来てくださいました。1年を経たスプーンの先輩を見つめる参加者のみなさま。1年前から続くこの活動を思って、スタッフも感慨にふけりました。

こうして、1年を通して、何度も参加くださった方、食材を提供してくださった農家のみなさまやそれを支える長野の地元販売店のみなさま、料理を盛る器をつくり選んでくださった作家のみなさま、信州の暮らしの道具を貸してくださったみなさま、そして手探りで「探す」ことをいっしょにしてくださり、示してくださった三谷さんに心からお礼申し上げます。ありがとうございました。

今後、春夏秋冬の活動の報告をします。
三谷さんと信州松本の暮らしを突き詰めて、深く深く掘下げていったら、そこにはどんな地域どんな人にも共通する暮らしの普遍性、真理があったのではないかと感じています。