#226 映画フイルム缶
映画産業を支えてきた映画フイルム専用の保存缶は、昭和初期よりフイルム製造が行われている神奈川県南足柄市の町工場でつくられています。 映画の技術が進歩しフイルムの感度が上がるのとともに、高機能な容器が求められ、映画産業の発展と足並みを揃えて進化してきました。
遮光性、防錆性に優れ、適度な通気性を持ったフイルム缶は、現像前のフイルムの感光を防ぎ、現像されたフイルムが上映に至るまでの流通、保管に欠かせない容器です。 暗室での作業の不自由さを少しでも軽減するよう、プレス機の微細なカスタマイズによって開けやすく閉めやすい繊細な設計がなされています。 小さな16mmフイルム用の缶は、転がって暗室内で紛失しないため角型です。 直径29cmの缶には1000フィートのフイルムが入ります。1000フィートのフイルムの上映時間は約10分。 2時間の映画を上映するには12本のフイルムが必要となります。映画が娯楽の中心だった時代、フイルム缶は街から街へ映画館を行き来し、大切なフイルムを守ってきました。
神戸にある民間の映画資料館で数万本という古いフイルムの保管風景を取材しました。 映画はもちろん、個人が撮影した映像、明治期に撮影された映画ニュースというありのままの日常や風景を映した映像もありました。 劣化させてしまっては二度と目にすることができない、人間の宝物が眠っています。 フイルムはデジタルデータより寿命が長いと言われます。老朽化した容器を取り替えていくのも大切な作業です。
映画制作のデジタル化が進む中、フイルムにこだわって制作するつくり手も絶えることはありません。 また、100年以上にわたる映像の歴史の中でつくられてきた膨大な数のフイルムは文化遺産とも言え、これからも大切に保管されていきます。
※フイルム=映画用、フィルム=写真用、と専門家の中では区別されています。