#111 バルカナイズド・ファイバー
町工場が多い東京都墨田区。路地を歩くとどこからともなく加工機械の音が聞こえてきます。
バルカナイズド・ファイバーや硬質パルプなどの板紙を加工する町工場を訪れました。バルカナイズド・ファイバーは、原材料の紙を特殊加工で繊維化し圧縮した強靭な紙素材です。1859年にイギリスで発明され、プラスチックが一般的に使用される以前は、軽く、強度があり、加工しやすい素材として様々な場面で用いられていました。例えば旅行用のトランクや、銀行や郵便局で使われる業務用の通い箱など、耐加重性、耐久性を求められる製品として重用されてきました。工場内は古く重厚な機械が並び、それぞれが美しい佇まいをしています。聞けば60年以上も手入れをしながら使い続けられているそうです。製造工程は手作業が多く、裁断や折り曲げ、リベットを打つ行程など熟練の職人が黙々と作業を進めています。抜き型はなく、注文に合わせて素材を切り出すため一点からの製造が可能です。
工場の外でくず入れとして使われていた古いボックス。雨に当たり少しくたびれていたけれど、何ともいえない趣きがありました。
色あせるほどに味わいが増す、ずっと使い続けたい道具です。