#162 信州 夏「森へ行こう」

松本市街から上高地へ車で一時間。穂高連峰や槍ヶ岳などの名山を臨む日本屈指の山岳景勝地。しかし「地元なのに行ったことがない。」という参加者も。近くだからこそ行かない場所ってあるものです。
今回は自然観察ガイドの方に山歩きの楽しさを教わりながらのトレッキング。初夏の鮮やかな緑に包まれた森の中を歩くこと二時間。辿り着いた徳沢で目の前にこつ然と現れたのは「楡(ニレ)の木料理店」という看板と、きちんと蝶ネクタイをしたスタッフたち。澄みきった緑の中でいただく、手の込んだフルコース。一日限りの特別な食卓でした。

場所:上高地
料理: 坂田阿希子

阿部春弥さんの白磁八寸皿

"僕は、木の生活道具を作りながら、あるいはクラフトフェアなどの活動を通して、工芸と暮らしを結ぶことをひとつのテーマにしてきました。だからFound MUJI信州のお話をいただいた時も、この土地にある優れた技術と暮らしを結ぶ、 ということが頭に浮かび、長野でものづくりの活動をする方と一緒に、長く使える日用品を作ることができたら、という気持ちがありました。
阿部さんは戦国武将で有名な真田町に生まれ、お父さんも陶芸家です。小さい頃から家でお父さんのつくる器を使って暮らしていましたから、作家ものの食器でご飯を食べることは、当たり前のことでした。そうした環境から高校3年の時、自分も陶芸家になろうと思い、瀬戸の窯業訓練所に入りました。その後備前で3年間修行してから、故郷に戻り、一年ばかりお父さんの手伝いをした後、独立したそうです。
今年32歳。備前で経験した「火と窯まかせの焼き物より、自分には出来上がりのことをイメージしながら仕上げていける磁器のうつわの方が合っている」と感じている。今回は僕の方で図面を描かせていただき、仕上がりを相談しながら作りました。「これまで図面を下にして作ったことがなかったし、かたちもこれまでにないものだったので、それが面白かった」と伺い、ほっとしました。阿部さんが器づくりで大切にしているのは「日常使いの器であること」。「オブジェのような世界があるのは知っているけれど、やっぱり普段使いの器がやりたい」と優しい雰囲気のなか、芯に強いものをもつ人です。"

三浦世津子さんのグラス

"底が厚く、きゅっと足元を絞ってあるため、手にした時に心地いい重さと、手に馴染む安定感があります。三浦さんのこのグラスを初めて求めたのは15年ほど前でしょうか、それからずっと愛用しています。ワイングラスとして使うことが多いのですが、それはガラスの透明感がとても高いことと、持った時の適度な重さからだろうと思います。お酒の気分というのは腰が据わるというのか、下腹の辺りで受け止めるようなところがあって、盃が軽いと、どこか頼りなく感じることがある。だから手に少し手応えのようなもの方があるほうが、落ち着いて呑めるように思います。このグラス、「つくるのはしばらくぶり」、と三浦さんはおっしゃっていましたが、森のレストランでは木漏れ日を浴びて、ひときわ輝いていました。
三浦さんは1986年からイギリス、チェコなど、各地に留学。まだスタジオグラスが日本ではそれほど盛んになってない頃から活躍している方です。長い間諏訪ガラス工房のチーフをしながら制作活動を続け、今は独立して仕事をしています。
三浦さんもまた「普段使いの器」をつくりたいとずっと思ってきた、とおっしゃっていました。"

※文中の" "内は、三谷龍二さんの文章からの引用です。