#163 信州 秋「林檎の木の下で」
10月の終わり。秋の実りを祝う小さな祝祭を。
松本の街の向こうに鉢伏山が見える高台にある林檎畑では、今年もたわわに林檎が実り、ひんやりとした晩秋の風を受けています。戸隠で作られた根曲竹(ねまがりだけ)の丈夫なかごでその林檎を収穫。外に並べたテーブルにつくと、どこからかヴァイオリンやアコーディオンを奏でる音楽が。丘のふもとから現れたのは、猫のメイクを施した音楽隊「くものすカルテット」。林檎やきのこなど秋の実りをふんだんにつかった料理を囲んでの演奏会。
"気の合う友達と手料理を囲んで楽しむことも、日々の暮らしの中の「小さな祝祭」だろうと思う。"
場所:松本市蟻ヶ崎の林檎畑
料理:細川亜衣
演奏:くものすカルテット
岡澤悦子さんの6寸鉢
"岡澤さんは松本に生まれ、陶芸を九谷で勉強した後、帰郷して、工房を構えました。そしてつい最近、住まいを安曇野に移したのだが、僕は今回の打ち合わせもあって、その新しい工房を訪ねることにしました。自宅兼工房はどこまでも広がる林檎園の、その中にありました。目の前には北アルプスが広がっています。中にお邪魔すると、壁は一面白く塗られていて、明るく、とても気持ちのいい仕事場でした。それを見ただけで、岡澤さんが日々の仕事の時間、そして暮らしの時間を大切にしていることがすぐに判りました。岡澤さんは「毎日の食事は、楽しくほがらかに食べること」を心がけているといいます。暮らすことと,つくることがとても近い関係にある陶芸家なのです。
今回リゾットに使ったリム鉢は、試作の段階で何度もスプーンで掬う仕草を繰り返したそうです。使う人が、この器を気持ちよく使うことができるようにという気持ちからです。その後、食事会に自身も参加して、楽しみつつも、お客様の反応が気がかりだったといっていました。でもリゾットがテーブルに配られ、同席の人々から「美味しい」と笑顔があふれた時、器もまた受け入れてもらえたと、ほっとしたと話してくれました。「暮らすことが好きで、器と料理の気持ちいい関係に興味がある」と書いていた人らしい感想だと思いました。"
※文中の" "内は、三谷龍二さんの文章からの引用です。